検査実施マニュアル②健康保険組合と連携して実施
会社が単独に実施するのでなく、健康保険組合等のサービスを活用して社員に肝炎ウイルス検査を受けてもらう方法です。結果の取扱いは健康保険組合等が行います。基本的には、会社は肝炎検査の受検を勧めるところまで行い、結果については関与しません。
(ただし、会社が単独で設立しているような単一型健保組合では、本人の同意を前提として結果を、産業医等が健康管理に活用する場合もあります。)
① 健康保険組合への確認
加入している健康保険組合等に、肝炎ウイルス検査を提供するサービスがあるか確認します。また、定期健診時に肝炎検査を追加できるか、料金はどのように設定されているかも確認しましょう。
「協会けんぽ」のように、一定の条件を満たす希望者に対して、検査費用の一部を負担し、低料金で肝炎ウイルスのオプション検査を提供する健康保険組合等があります。また、人間ドック等の項目(オプションを含む)として肝炎ウイルス検査が含まれている場合もあります。
「協会けんぽ」HPに掲載されている対象者の条件
下記の1~3のいずれかに該当する方のうち、検査を希望される方。だだし、過去にC型肝炎ウイルス検査を受けたことがある方を除きます。
(自己負担額:最高612円、実際の検査費用:最高2,041円)
- 一般健診を受診する方で、当年度において35歳以上の方
- 一般健診を受診する方で、広範な外科的処置を受けたことがある方、又は妊娠もしくは分娩の時に多量に出血した経験のある方
- 一般健診を受診された方で、健診結果においてGPTの値が36U/L以上であった方
※ 条件は変更される可能性がありますので、協会けんぽのホームページで確認をしてください。
協会けんぽの被保険者を対象に、受検票の簡便化と表現の工夫で受験者数が増加した成功事例を紹介しています。参考にしてください。⇒ 成功事例「全国健康保険協会での肝炎ウイルス検査促進の実例」
② 実施することを決める
肝炎ウイルス検査は法律で実施が義務づけられている検査ではありませんので、健康保険組合等のサービスを利用して検査を提供する場合も、安全衛生委員会などで労使間の話し合いの機会を持ち、会社全体の合意を得て実施しましょう。その際、検査を受けない自由があることも説明しておきましょう。
③ 実施内容を決める
検査を受ける人
肝炎検査は一度受ければよいので、これまで検査を受けたことがない人を対象とします。まずは対象者のみ、定期健診時等に1回検査を実施します。その後は雇入時の健康診断で、新入社員のみ検査を実施すれば、必ず1度は全社員が受検する機会を得るため効率的です。
費用について
健康保険組合等によって、検査費用の補助の有無や料金は異なります。
また、健康保険組合等が負担しない部分の検査費用を会社が支払うか、受検者個人が負担するかについても、あらかじめ社内で取り決めておく必要があります。
結果の取り扱いについて
肝炎ウイルス検査の結果は機微な情報であり、原則、会社が情報を得るべきではありません。健康保険組合等がオプション検査として肝炎ウイルス検査を実施している場合は、通常、結果は本人へのみ通知され、会社には通知されません。
しかし、医療機関などで、感染対策のために結果を知っておく必要がある場合、あるいは、社内に産業医・保健師のような医療職がいて、責任を持って情報を管理し、連携を取る体制が整っている場合は、協議の上、会社として医療職のみが検査結果を取得することも考えられます。企業が単独で設立しているような単一型健保組合では、結果の取得が可能な場合もありますが、そうでない場合は、システム上難しい場合もあります。会社の医療職に結果を通知することが可能かどうかについては、加入されている健保組合等に、個別に確認しましょう。
結果を会社の医療職が取得する場合も、本人に対しては、検査の前あるいは後に、結果が事業所の限定された担当部署(健康管理部門など)に通知されることや健康管理にのみ活用することについて説明し、同意を得ておくことが必要になります。 会社が検査結果を取得する場合は、結果の保存方法についても注意が必要です。紙の帳票なら鍵付き金庫に保存する、データベースならパスワードを設定するなどして情報の漏洩・流失のないよう厳重な管理が求められます。
④ 社員の同意を取る
検査の実施に当たっては、健康保険組合等が提供するオプション検査であっても、社員がウイルス性肝炎について正しく理解し、検査の重要性を認識できるよう十分な説明を行うことが望ましいでしょう。検査を実施することについては全体に対して周知し、検査の対象者に対してはより詳細な説明を行います。
会社全体への周知
検査を実施することについて会社全体に周知します。
【方法】
- 職場の衛生担当者を通じて周知する
- 説明会を開催する
- 社内HPや掲示板を介して周知を図る
- 社内の健康管理規定に記載し、いつでも閲覧可能な状態にする
社員へ個別の説明
社員に個別に説明を行う必要があります。説明には、以下のような内容が含まれるようにしましょう。 なお、説明と同意の取得は、健保組合等が実施する場合もありますのでご確認下さい。
【説明内容】
- 検査の目的が本人の健康管理のためであること
- 検査結果の取扱い
- 本人の費用負担(個人負担がある場合)
- 検査の受検は本人に選択の自由があること
- 検査及び結果についての相談窓口
【方法】
- 事前に配布する受診案内に説明文を同封する
- 電子メールで対象者に情報を配信する
- 検診会場での掲示や案内を行う など
社員の個別の同意
会社全体の方針として健康保険組合等と活用して、肝炎ウイルス検査を実施することが決まった場合も、社員自身が検査を受けるか否かを選択できるようにする必要があります。
同意は文書で得る方法が望ましく、書面上に「同意する」「同意しない」の両欄を設け、選択してもらう他、本人が同意書に署名する方法などがあります。
その他に同意を得る方法として、以下のような方法も考えられます。
- 本人からの同意する旨のメールの受信
- 本人による同意する旨のホームページ上のボタンのクリック
- 本人による同意する旨の音声入力、タッチパネルへのタッチ、ボタンやスイッチ等による入力
オプトアウト(目的を提示して検査することを拒否する人に申し出てもらう)方法では同意とはみなされません。
⑤ 検査実施
検査は、通常の採血検査で行われます。定期健診時の採血量で充分なので、特に多く採血する必要はありません。検査の前に、特別に絶食したり、薬を止めたりする必要もありません。
⑥ 実施後の対応
結果を放置させないために、検査後の対応を必ず行います。
相談窓口の設置
検査結果を事業所が取得する場合もしない場合も、検査や結果について、社員から相談や質問が寄せられることが考えられます。あらかじめ対応する相談窓口を設置し、周知しておくことが望ましいでしょう。相談対応にあたっては、守秘義務を守ること、健康管理の目的以外に情報を用いないことを徹底するようにしましょう。 非医療職が窓口となる場合は、必要に応じ医療職と連携をとるようにしましょう。
<相談窓口の例>
健保組合等の相談窓口 | 会社が検査結果や相談に対応しない場合 |
---|---|
医療職(産業医・産業保健看護職) | 最も望ましい |
衛生管理者 | 医療職と連携することが望ましい |
人事部門・総務部門 | 担当者を特定し、健康管理以外の目的では結果を利用しない等の情報管理を徹底する必要がある |
【相談事項として考えられる例】
- 検査のメリット、デメリット
- 結果の取扱いに関するもの
- 検査結果への対応に関するもの
- 就業上の配慮に関するもの
- 医療機関・社会制度に関するもの
- ハラスメントに関わるもの
肝臓専門医の受診を促すことが大切です。
健康保険組合等が提供するサービスで肝炎ウイルス検査を実施する場合、通常結果が本人にのみ通知されますので、積極的に健康保険組合等が本人に受診を促す場合を除いて、専門医療機関への受診は陽性者本人の自主性に任されます。
しかし、現状では肝機能異常や自覚症状がない陽性者の多くは受診に至らず、陽性結果を放置してしまうケースが多いことが指摘されています。本人へ検査結果が通知される際に、肝臓専門医への受診の必要性について十分な情報提供を行い、専門医への受診につなげましょう。また、陽性だった場合は、自発的に会社の医療職(産業医など)へ相談するよう促すことも、結果を放置させないために重要です。
もしも、会社の医療職が検査結果を取得している場合は、個別に専門医療機関に受診勧奨します。
健保組合等が、受診勧奨まで実施可能な場合は、健保組合等からの受診勧奨を依頼しましょう。
特に健保組合は、ウイルス検査陽性の方に関しては、レセプトで専門医受診の有無が把握できます。0.5%程度の陽性率ですので必ず受診しているか追跡してください。
こちらのコンテンツは「 肝炎セキュリティ 」を元に再編しています。